常雲寺の竜神さま

市川1


 市川の常雲寺には勝姫竜神があります。竜神は八部衆といわれる仏教の守護者ですから寺にあるのも不思議はないと思われるかもしれません。
  もともと勝姫竜神は『死にっ田』といわれる呪われた地を鎮めるべく作られました。『死にっ田』は作物を育てると家族や周りに不幸が起こった場所です。こうした呪われた田は多く存在していますが、その起源は謎が多いものです。しかし『死にっ田』は原因がはっきりしています。そこで一人の姫が殺されたのです。
  姫の名はいつの姫。滅びた小田原北条氏の姫でした。彼女は遺臣の野地兄弟に育てられていました。三人は現在の常雲寺に庵を作り、姫も名を勝と変え、暮らしていました。しかし、姫が成人した頃、何者かに殺されてしまったのです。それ以来その辺りは呪われた地となったのです。
  『死にっ田』に対して常雲寺の三十四代日英上人は穢れを祓うべく、祈祷を行いました。その時、勝姫の霊が現れ、「この場所の守りとして祭ってくれるのなら、お参りする人の悩みを救いましょう」と告げました。上人は池を作り、姫を勝姫竜神として祭りました。
  何故、姫は竜神として祭られたのでしょう。まず地理の理由。常雲寺を含め、市川近辺は川や海など水利に関するものが多い事。そう考えると竜神はうってつけですね。
  そして勝姫の出身です。北条氏の家紋は三つ鱗紋ですがそれには由来があります。初代の北条時政が江ノ島弁財天に子孫繁栄を祈願した時、美女に変身した大蛇が神託を告げ、三枚の鱗を残して消えた事を記念しているのです。つまり勝姫は鱗の一族から守護を受けた者の末裔だったのです。だからこそ死後、竜神として祭られたのではないでしょうか。
ちなみに歌舞伎においてもこの鱗紋は竜神=魔の属性として語られています。歌舞伎を見たときには是非見てみてください。